地域の材料と技術で活性化/日本の伝統工法復活に取り組む
黒川哲郎の新聞掲載誌のファイルを整理していて、2008年5月15日付の建設通信新聞の記事が目に留まりました。
この取材は、福岡県『うきは市立総合体育館』の設計競技で、「地場産の耳納杉(みのうすぎ)の丸太2100本を立体トラス構造として屋根架構に使う」案が採用され、その工事が始まった頃に受けたものです。黒川の書く文章は、ワンセンテンスに色々な思いが詰め込まれていて読みあぐねがちですが、記者の方の上手なリードで、木造建築に踏み出す端緒からこの先の展望までを、分かり易く語っていますので、サマライズしてみました。
「1980年代、東大の内田祥哉先生の呼びかけで設立された木造建築フォラムに、RCや鉄骨造の設計経験があるということで誘われ、参加した。まず、大スパンの木造建築を国産材でつくるという技術開発を進めたが、当時は、集成材でしか大スパンをつくれず、その集成材はほとんど輸入であった。当時の行政改革で、林野庁庁舎の地方移転が始まり、庁舎コンペの設計指導委員となったが、国産材を使った提案は、銘木の仕上げなどにとどまり、出てこない。そこでモデルを作ろうと、北海道の置戸営林署で、構造から仕上げまで100%の地域材活用を可能とする構法を試みた。初めは道産のマツの集成材が使えると考えていたが、曲がりなどがあり難しい。そこで丸太のまま使ったのが、【スケルトンログ構法】の始まりだった」
と、語ります。そして、
「【スケルトンログ構法】は、材料強度が製材よりも高い丸太材を、皮をはいで自然乾燥し、大スパン架構と軸組みのスケルトンとすることで、地域材を使って公共建築をつくる木造化技術となり、これまでに道の駅、店舗、診療所、学校などの施設で実用化し、実作は30件余りになった」
と、この構法の概要と実績を述べ、その意義を、
「公共建築の木造化は、地域を元気にする一つのきっかけだと思う。地元の林業家と大工さんたちが、地域通貨的な役割を担う。うきは市はかつて、東京の方まで木材を供給していた有数の木材生産地だった。この『総合体育館』が林業再生のシンボルになることを願っている」
と述べ、丸太の審美性と合理性と経済性を、
「スギは、皮をはぐときれいな肌が見える。それを生かして使うのです。丸太材は、加工のときに廃材となる部分が少ないので利用効率が良い。そのうえ、鉄やコンクリートより比強度(質量あたりの強度)が高いため、鉄骨の体育館と比べると、通常で一割、多雪地域では3~4割程度も価格がおさえられる」
と、それぞれの利点を強調しています。そして、
「木造建築フォラムでの研究や、その後の【スケルトンログ構法】の実践で日本各地の林業地をまわるうち、日本の民家の『差し鴨居工法』を知り、本来の住宅の伝統工法を現代の住宅にいかしたいと、長年のパートナー・構造家の浜宇津正氏と、適格なパラメターつくりなど、整理をしているところだ。
日本の伝統工法は、太い柱と梁で組んだ大断面の軸組のスケルトンで、それを障子や襖で間仕切りしていた。日本の住まいは、建物のストック性と生活のフロー性を両立するスケルトン・インフィルのシステムだった」
と、地域材活用のもうひとつの技術【スケルトンドミノ構法】の概要について述べ、最後に、
「公共建築は地域にいくつもつくられるわけではない。やはり地域に貢献できるのは住宅建築であり、建築技術と生活スタイルがうまく一致していたのが伝統建築の歴史といえる。これを復活させることで、日本の林業を再び活性化させたい」
と、結んで、そのコモン化に意欲をみせています。
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