公共木造建築を地域材と地域技能でつくる

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公共木造建築を地域材と地域技能でつくる

「今は法規も変わり、公共木造が楽になりましたが、30年前に挑戦していた方を知り驚いたものです」と、黒川哲郎+デザインリーグのHPをご覧になった、中安祥太氏のツイートがありました。

2004年、構造設計家の浜宇津正氏と共に、「地域材と地域技術による公共建築の木造化構法の開発と実践」で、日本建築学会『業績』賞をいただきました。エントリー時に提出したレジュメ「林業と建築のリンケージ再構築の試み――地域材と地域技術で地域の建築をつくる」から、【林業と建築の在り方】に、建築家として成すべきことを試行し続けた黒川哲郎の思考を、ブリコラージュしてみました。

まずは、「林業地の本来の姿は、建築資材の供給を通じての土壌の保全と水源の涵養であり、地域の生活と文化の創出です」とし、「環境と資源のサステナブルな両立には、山林の建築的活用が大原則です」と述べます。そして、

「日本の主たる人工林材のスギ・ヒノキは、価格が低下しても輸入材に圧され続けています。その最大の要因は、強度のバラツキや、元口と末口・短径と長径の径差や曲がりなどが大きく、構造材としての利用効率が低く、集成材化は勿論、在来軸組材としての活用も難しいためです。品質を急に上げることは困難ですから、流通の短絡化やラベリングによる地域材の助成といった活用策には限界があり、よって利用効率を高めるための活用技術が不可欠です」

として、自らの活用技術開発の道程を語り始めます。

「1990年代初頭に設計した『置戸営林署庁舎』では、バブル時代の公共建築の低単価の故に、支給のエゾマツ・トドマツの集成材化の見通しが立てられず、燻煙乾燥した大径短尺材を皮剥ぎし、丸太のまま使って12mスパンの事務空間を架構しました。

1991年に九州地方を襲った19号台風で、大量の風倒木を出すなど被害の大きかった大分県の日田林業地域に招かれ、1996年、上津江村に『診療所』と『保健センター』を、中津江村に『木工協同組合倉庫』を、それぞれ【製材を使った在来軸組】、【集成材を用いた半剛接軸組】、【皮剥ぎ丸太によるトラス梁3鉸点ラーメン】と、期せずして3種の構法を比較する事例研究となりました。その結果、【横架材勝ちの在来軸組】は、筋交いの制約から2階建て以上の大規模建築化が難しく、【集成材半剛接軸組】は、集成材がメーカーの用意したラミナーに差し替えられてしまい、地域材の活用が叶いませんでした。結局、3番目の【皮剥ぎ丸太の架構や軸組】が、大掛かりな生産設備がいらず、人工乾燥の石油エネルギーコストを自然乾燥や皮剥ぎの労務費に振り替えられることから、「林業地で取り組み易く、林業に展望を持たせる」との評価を受けスケルトンログ構法】と名付けて発展させることにしました。CADによって、容易に接合部の金物化が図れ、鉄骨造との競争力を得たことも、構法を実践的なものとしました。

1999年、36mスパンの『朝地町道の駅』、2000年、30mスパンの『大分県立日田高校体育館』などを契機に、強度と寸法安定を目的として〔乾燥〕に本格的に取り組みました。丸太はJASで素材として扱われていることから告示では無等級ですが、森林総研の実験では同径の材から採った正角材の13~20%増しのヤング係数があり、データの蓄積によって許容応力度を製材品より高く設定しうる可能性が示され、構造材として集成材とも充分に競争力があります

2001年、『郡上八幡総合スポーツセンター』の設計は、樹齢250~350年の天然ヒノキ600本を入手しての、大径短尺の木造建築のプロジェクトXでした。約7mの材に斜材とパイプの束をつけてトラスユニットとし、半コマずらしに並べて30mの梁とした木造ならではのアーチ架構です。この構造で、浜宇津氏が第13回松井源吾賞を授与され、【スケルトンログ構法】は、丸太材と共に普遍的に構法や構造材として認知されました。・・・・打撃音による動的ヤング係数の測定値を7掛けにして選木し、構造計算は無等級に止めることから、高い安全率を確保しながら100%近い利用効率を得、また、経験から墨付け・刻みは平均含水率25%で可能となり、単年度の設計・材料調達・施工を実現しました。工費に加え工期の問題も解決し、木造建築が公共事業に馴染み易くなりました

その後、地域通貨的な建設風景を繰り広げるなど、日田の林業地に10件の事例を重ね、建築資材の生産供給地として次なる展開を侍しています。

一方、事例を福井県、富山県、新潟県、徳島県、山梨県と全国に広げ、北陸地方では、元口と末口の径差、すなわちラッパ度の大きな材での積雪荷重の大きな架構に取組んだり、山梨県では松喰い虫の被害の著しいアカマツの活用を図るなどそれぞれの地域の林業や建築に合わせた構法を展開しています。町村合併前に村有林を有効に資産活用したいとの村の希望も実現しました。

公共建築の木造化は「儲からない、時間がかかる」と地域工務店に敬遠されがちです。そこで、構造モジュールを仮設計画と一致させるなど、施工者の経費を確保する工夫をしていますが、何より「大きな材を使って大きな架構を組む」ことは、技術者として生きがいと誇りを回復させます。さらに左官や板金や建具などの地域技能は、丸太の一本一本の個性や集合しての地域性と共に、構法の普遍化と対照的な、地域独自の建築文化を醸し出しています。

『置戸』では苦し紛れであった丸太活用が、10余年間に25件の事例を重ね、体育館、ゲートボール場、道の駅など、多様な地域公共施設を実現しました。

なかでも『郡上SC』他3件では耐火構造の屋根架構、『日田高校体育館』他3件では準耐火構造として、技術をもって工費・工期・法規をクリアし、地域材活用に新しい可能性を拓くことができました

皮剥ぎ丸太は、川上の林業家にとっては、親から引き継いだ材を、姿を変えずに形として残すことができ、川下の市民にとっては、エコロジカルでサステナブルなアイコンとなるようです。これからも【スケルトンログ構法】によって、皮剥ぎ丸太の構造材としての強さと美しさを生かして、地域の材に新たな付加価値を生み出す建築をつくり続けたいと考えています」

と力強く締めくくっています。

地球温暖化が危機的な今日、巨大な資本と産業の枠組みに飲み込まれていくような林業と建築にあって、20年前に書かれたこのレジュメは、川上と川下を繋ぐ技術の開発を担う建築家のミッションの重要性を暗示していたのかもしれません。

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