『吉祥寺時間』というフリーペーパーvol.04のコラム「ココもみどころ!」に
「通りを歩いていると一見、何だろう?と思わずつぶやいてしまうこの建物。1994年に建築家、黒川哲郎さんの設計によって建てられた駐車場とのこと。街角のシンボルとして存在しているこの建物、実は内部も見どころが満載です。約25年前にこのような公共の駐輪場を整備した武蔵野市もすごいですね」
とあり、『末広通り自転車駐車場』の設計から4半世紀以上が経ったことに驚きました。当時の掲載誌『GA JAPAN 09』を繰ってみると、黒川は、
「吉祥寺駅と前進座劇場を結ぶ古くからの商店街の入り口に、放置自転車の解消と、迷惑施設のイメージを返上する街角風景の核の形成と地域の活性化への寄与という意味を込めた」
と書き出し、ほぼ同時期に設計した3件、『上野公園動物園前交番』『タイム・スペース・アート』『ラ・ビスタビル』のガラスとメタルワークについて、
「『交番』は杜の中の建築であり、その案内機能と記憶に残りやすい建物が求められたため、樹冠線に合わせた10mの高さの“杜を”、アルミ厚板の折半構造で、自然と建築を繋ぎ枯山水的なオブジュとし、建物本体をその四阿(あずまや)的キャノピーの中におさめた。
『タイム・スペース・アート』のガラスは、コンクリートと対比的に透明性を強調し、『ラ・ビスタビル』のガラスは、スチールバックマリオンのSSG工法で、コンクリートとフラッシュサーフェイスに一体化して、そのソリッドな形態をアルミの厚板リブ付きのシェルの天蓋と、対比的に浮かび上がらせた」
と、解題し、続けて『駐輪場』のガラスとメタルワークについて、
「それに対して『駐輪場』の5m×1.2mのガラスは、内側は半透明の飛散防止フィルム、外側は防眩フィルムで両面貼りし、10点のブラケットで持ち出して支持し、緑のベールを描き出した。
19mm厚のガラスは、昼間は、外部からは硬質な板に感じられるが、内部を目には定かに感じられない緑の色光で満たし、夕暮れとともに自ら発光して、照明の光をファサード全体に滲み出させる。
屋根を覆う10mmの網入りガラスは、緩く勾配を描き、その上にはベルトコンベア用のスパイラルメッシュを使った天蓋を張っている。メッシュは高い透光率と熱断遮性、そして光の散乱効果を持っている。
天井は、ガルバリウム鋼板のパンチングメタルを波板加工したものを互いに直交させて2枚重ねしている。
こうして三重の光の篩(ふるい)を透過し、モアレを伴った散乱光は、木漏れ日を思わせるきらびやかな陽光を天上いっぱいに繰り広げている。中央にはメッシュのスクリーンをかけ、上部の天窓からの光が4層の吹き抜けを浸透していく様をあきらかにしている。45度傾けて6枚吊り重ねられたそのスクリーンの周りを巡ると、半透明から透明、そしてまた半透明と視界が変化し、動的空間体験が強調される。
パンチングメタルの波板は、外壁のガラススクリーンの間や北側階段の防雨と目隠しに、また階段の手すりでは波板加工せずに重ねて用い、散乱光を持ち込むとともに、モアレパターンが人の動きに従って多様に変化して、移動体験をさらに多彩なものにしている」
と述べています。様々なメタルワークの駆使によって生まれる4次元的な変化が、通勤や通学に自転車を押しながらスロープを行き来する人々に、癒しと高揚感を与えることを願っていたのかもしれません。そして、
「地を構成するアースカラーの大理石は、高さを変化させつつ武蔵野のハケのような湧水面をつくり、1階部分のキャンティレバーのRC壁につながっていく。2階のRC床は、それを支える柱、梁とともにそこから自立しており、その上に床まで工場部品化した鉄骨構造が組み上げられた。床版はR階梁から中央を吊っており、自転車のメカニズムと共通する快い緊張感を持たせると同時に、階高を低く抑え込み、見通しのよい樹下の空間をつくった」
と、構造と構法をもつ建築のダイナミズムを語っています。
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